気になるから調べた先にあったものとは!? ~『桃太郎は盗人なのか?』を読んで

読了本

よつばさんが桃太郎について調べようと思ったきっかけとは?

日常生活の中で、ふと気になる物事や現象ができた時、あなたはどうしていますか? 「気になるけど調べるのが面倒だからそのままにしておくタイプ」でしょうか。それとも、某刑事ドラマの警部のように「気になることがあると、とことん調べ挙げ追求するタイプ」でしょうか。
本書の著者・倉持よつばさんは後者タイプのようで、11歳の時、ふと疑問に感じたことを自身が納得するまで調べ挙げ、その調査結果をまとめました。それがこの『桃太郎は盗人なのか?』です。

よつばさんが桃太郎について調べようと思ったきっかけは、彼女が10歳の時に読んだ絵本『空からのぞいた桃太郎』(岩崎書店 /発行、影山徹 / 作・絵、2017年)で、それまで自身が信じてきた話とは異なる桃太郎を知り、「桃太郎の鬼退治」に疑問を感じたから。
この絵本の内容は「何も悪いことをしていない鬼が、桃太郎に殺されたうえに宝物を略奪された」というもので、帯には「鬼だから殺してもいい?」とあり、解説には福沢諭吉が桃太郎を非難した言葉が書いてあったのです。

そこでよつばさんは

「村の人々を守る正義の味方だと思っていた桃太郎が盗人!? どろぼうだって!? どういうこと??」(P6)

と思い、それと同時に「悪くない鬼もいるのでは?」と疑問を抱き

「桃太郎がどうして盗人だと言われているのか、そして、どうして鬼はいつも悪いと一方的に決めつけられているのかを調べてみたく」(P7)

なったそう。

その後、彼女は自分自身が納得するまで調べ挙げ、その調査結果をまとめたものが2018年に開催された「第22回 図書館を使った調べる学習コンクール小学生の部(高学年)」で、見事、文部科学大臣賞を受賞したのです。

ところで、よつばさんが調べた先に見出だした答えとはなんだったのでしょう。

本書はこの時の応募作品をまとめたもので、よつばさんの調査力の高さが窺えるとともに、彼女の好奇心の芽を摘まずに協力した親の姿勢が垣間見える一冊です。

よつばさんが参考にした本は200冊以上!

よつばさんが「桃太郎が盗人なのかどうか」を調べるため参考にした書籍は、巻末の「資料編3 鬼が出てくる絵本・物語と調べ学習で参考にした本」を数えると66冊ありましたが、実際には200冊以上に及ぶそう。

絵本以外の大人向けの本は必要な箇所だけを読んだのかもしれませんが、それにしても200冊以上とは。
「知りたかったから」とはいえ、11歳で吉川弘文館の書籍や『今昔物語』(鬼の手首を射切った兄弟の話)を読むのも凄いよね。
さらに参考書籍を読むだけではなく、関連スポットを回るために居住県外への遠征も!

県内県外へ何回行ったのか気になったので、本書の記述からざざっと調べると、分かる範囲でも12日以上。けれど

「学校の図書室や袖ケ浦市立図書館、木更津図書館で「桃太郎」の本をたくさん読んでみる。」(P26)

とあることから著書に載っていないだけで、袖ケ浦市立図書館と木更津市立図書館へは何度か足を運んでいるようでした。

学校の図書室だけでは数に限りがあるので、居住している袖ケ浦市の市立図書館だけではなく、近隣の市立図書館へも行くのは良いアイデアです。
それにしてもいくら気になる事柄を調べたいからといえ、この行動力たるや。2018年で11歳ということは、現在(2025年)18歳。一面識もない赤の他人ですが進路が気になります。

ところで、私って11歳の時って何をしていたんだろう? 本は好きだったので学校の図書室であれこれ借りては読んでいましたが、一部の本を除き「読んだだけ」で特に疑問を感じることはなかったような気がする。
特に昔話──、たとえば桃太郎の鬼退治の場合は「ふうん、鬼ヶ島へ鬼退治に行くんだ~」くらいの感想しか持たなかったと思います。

調べ物学習は夏休み前からスタート

話はよつばさんに戻しますが、どうやら夏休みに入ってから動いたわけではなく、遅くとも5月にはスタートしていたようでした。
そして6月には袖ケ浦市立中央図書館で松居友(『ももたろう』の著者・松井直さんの息子)の講座を聴講。6月で核心に迫ろうかという勢いです。このタイミングでの講座聴講は、もはや引き寄せている感すら漂いますね。

ただ、ここへ至るまでには彼女の母親が事前にインターネットで検索をし、調べ学習の道筋をつけてくれたことが大きいと考えられます。
どんなに「気になるな。調べたいな」と思っても壁にぶつかった場合、子どもの力だけでは乗り越えることができないことも多々あるので、そのような時に大人の力が必要になるんですよね。

今回のよつばさんの場合も親の協力がなければ彼女なりの結論は見出せなかったと思うので、お母さん、グッジョブ!(上から目線で申し訳ございません)

犬山~岐阜~大江町への県外遠征は家族旅行なのかも!?

よつばさんの県外遠征は少なくとも4回。そのうち、家族旅行レベルの遠出が2回あります。

1回目は桃太郎と鬼について調べるため、夏休み初日から愛知県犬山市~岐阜県岐阜市~京都府福知山市へ。2回目は鬼が何者なのかを調べるために、山形県東置賜郡高畠町にある「浜田広介記念館」へ行っています。

「犬山市って桃太郎と関係があるの?」と思う方もいますよね。実は犬山市は桃太郎の誕生地とされ、桃太郎神社があるのです。

千葉県袖ケ浦市から犬山市までをGooglemapで検索すると、有料道路経由で最短でも4時間36分(387km)かかるそう。帰路(福知山市から袖ケ浦市)は7時間11分(581km)。
千葉から京都は遠いので、家族旅行を兼ねた遠征なんだろうな。

彼女はたぶん桃太郎神社の後に岐阜県図書館へ行き、ここで桃太郎の読み比べ絵本74冊を読み、それらの本を

「鬼退治に行く理由がどんなふうに書かれているか。」
「桃太郎が唐突に『鬼退治に行く』と言っているか。」
「鬼が悪さをしているか、していないか。」(P26)

の3つの視点でチェックをし桃太郎が盗人なのか?の結論を出しています。
しかし、その結果に納得が行かず、江戸時代中期の享保年間に出版された最古の桃太郎を読むことを決意。
東京都立多摩図書館で復刻版『桃太郎』のコピーを取り、袖ケ浦市郷土博物館の学芸員の協力を得て読みました。


というのは、復刻版『桃太郎』は江戸時代の本。そのため書体がニョロニョロとしたくずし字で読めなかったんですよね。

くずし字は以前、和樂webの記事執筆時に何度か読む機会がありましたが、あれはとても読みにくい…というか読めないよね(苦労しました)。

いや待って…74冊も凄いけど、結論に納得が行かなくてさらに追及して赤本って…。
しかもこの本の内容は「桃を食べたお爺さんとお婆さんが若返って…」の回春型。現在の絵本に書かれる一般的な桃太郎誕生シーンとはまったく異なります。
11歳で回春型桃太郎の存在を知ってしまったのね…。

山形では「浜田広介記念館」前館長にインタビュー

家族旅行レベルの県外遠征2回目では「浜田広介記念館」では祖母の伝手を頼り、同館の前館長・樋口隆さんにインタビューをしています。

浜田広介作の『泣いた赤鬼』に登場する鬼はやさしい鬼ばかり。
赤本や樋口氏へのインタビュー等から、彼女は時代によって桃太郎の話や鬼の正体が変わることを知りました。

最終結論までもう一歩です。

鬼について調べるため彼女が向かった先は…

それは浜田広介記念館へ行く前のこと。
よつばさんは「千葉県房総かるた」の全国大会に向け今井青年館で特訓を受けていた際に、かるたに「鬼来迎(全国で唯一の仮面による地獄芝居で、「鬼舞」とも呼ばれる古典的地獄劇)」が入っていることを知りました。
※鬼来迎の「鬼」の字は本来は「田」の上の「ノ」がありません

知った後になのかは分かりませんが「地獄にいる鬼は、どんなことをしているのか」が気になったようで、8月16日に千葉県山武郡横芝町虫生の広済寺で行われる重要無形民俗文化財の「鬼来迎」を見学しています。
書物を読んで調べるだけではなく、実際に関連スポットを訪問して疑問を解消するこの姿勢、好き(ハート)。

「桃太郎」や「鬼」もそうですが、「浦島太郎」や「竹取物語」、天女の羽衣で知られる「羽衣伝説」も全国的各地に伝説地があるんですよね。

ただ私は、これらには迂闊に手を出さないようにしています。だって沼に落ちるのが分かり切っているんだもん。
というのは、疑問に思った物事を調べていると関連する物事が新たに湧き出てしまい、それらも調べるうちに深みにはまりどんどん沼へ落ちて行くから。沼に落ちるのが分かり切っている物事は沼の周囲をうろうろし、時折浅瀬でちゃぷちゃぷする…くらいに留めています。

羽衣伝説をモチーフにした少女マンガには『吉祥天女』(小学館 / 吉田秋生)や『妖しのセレス』(小学館 / 渡瀬悠宇)があり、後者は読了済ですが前者はまだなので、いずれ読みたいと思っています。

よつばさんが出した答えとは!?

200冊以上の本を読み県外遠征をもしたよつばさんが「桃太郎を読んで考えた鬼の正体」は、本著のP83に載っています。
そこには

自分なりの「鬼は何者なのか?」の答えを出そうと思います。

 私は、鬼は一人ひとりの心の中にいて、その鬼がたまに出てくるけど、その鬼がいないと、一人ひとりの心は成長しないと思う。その鬼がいるからみんなは成長する。(P83)

とありました。
11歳にしてこの結論を見出すなんて、脱帽ものです。
前出しましたが、ぼ~っと読書していただけの私とは大違い。時代や環境が異なるとはいえ、雲泥の差です。

これらの結論をつけ丁寧にまとめあげた自由研究作品が、「第22回 図書館を使った調べる学習コンクール小学生の部(高学年)」で文部科学大臣賞を受賞。本書の巻末には、このオリジナル作品が掲載されています。

その後の彼女は…

この探求心を忘れずに突き進むと、いったいこの先はどうなるのでしょう。

と思ったので、よつばさんのその後を調べてみました。

すると、2020年1月に『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん2時間スペシャル』へ「桃太郎博士ちゃん」として出演していたそうです。
私はこの時間、他局の『有吉のお金発見 突撃!カネオくん』を観ていたので、全然気がつきませんでした…。カネオくん、面白いんですよ。(福くんと望結ちゃんが交代でアシスタントをしていた頃から観ています)

さらにその3年後には「ゾッとする日本のふしぎ遺産」をテーマにした90分のスペシャル番組にも登場。
あ…この回は純粋に見逃していました…。残念です。

さらにさらに、中学2年生で2021年度に開催された「第25回 図書館を使った調べる学習コンクール中学生の部」で、またもや文部科学大臣賞を受賞!
この時は桃太郎の性格等を調べるために日本全国の「桃太郎」を読み比べたそう。やはり彼女は「桃太郎沼」に落ちていたようです。

疑問を解消するために書籍を読むのはもちろん、関連スポットへ赴いて納得が行くまで徹底的に観察し調査する。そしてそれらに基づいて思考をまとめる力があれば、AIの検索結果に惑わされることなく正しい情報を掴めると思う。

遠州の空の下からよつばさんの行く末を見守っていきたい。この本を読み終えた後、私はそう強く感じました。

今回の読了本▼
『桃太郎は盗人なのか?─「桃太郎」から考える鬼の正体─』(新日本出版社 / 発行、倉持よつば / 著、2019年)

この記事は無断転載、改変およびAI学習禁止です。(麻生のりこ)